2005年05月31日

それは確かに歴史的だった

 日本の競馬ファンなら誰もが楽しみにしているであろう一大イベント、東京優駿が催された。非常に競馬歴の浅い私にとって、今年のダービーは最も特別なものであったのだと思う。ディープインパクトである。歴史的なまでに期待された馬が、日本競馬の最高位のレースに出走し、その世代での王者を証明したレースだった。こう、誇張して書いてみたものの、ある種滑稽ではあるが、そう否定もされないだろうと思っている。

 ディープインパクトが確かに歴史に残る馬であることは、このレースで確実となった。それは単勝支持率を見ても明らかだろう。今までの記録はハイセイコーの66.6%だった。それから30年以上経て73.4%という記録に塗り替えられた。この確かな数字からも立証されるのである。

 ディープインパクトは歴史的名馬だろう。頭の中ではそう思っている。しかし、何故か私にはそこに興奮を覚えないのである。

 あれから数日経ち、ウェブを見回すと、どうやら同じような感覚である人が少なからずいるようである。たとえば、「主催者が悪ノリする祭りが一番盛り上がらない」などというエントリーもあり、なるほどなとちょっと笑ってしまった。確かに私も、あのディープインパクト像はどうかと思う。このようなエントリーを山城守氏がまとめていた。

【まとめ】なぜダービーに心が動かなかったのか?

 氏のまとめる項目はこうである。

  1. 主催者JRAの露骨な営業姿勢
  2. 盲目的に踊らされた大観衆
  3. 名勝負というには物足りないレース内容

 このように見て、それほど問題は無いとは思うものの、多少疑問が残るのである。

 1については、まあ、ダサダサで引いた点において同意できるだろう。

 2つ目、「盲目的に踊らされた大観衆」である。今回、東京競馬場の入場者数は14万人で、前年より15%ほど多かったそうだ。にもかかわらず、売上は落ちている。(産経の記事を参考)。これは JRA も意外だっただろう。ディープインパクトのみが目当ての観衆が多かったということを意味しているのかもしれない。

 ただ、私は「それで?」という印象しか持たない。むしろ、それでよいではないか、とすら思う。何故か。それがブームというものだからだ。ブームに乗るものは必ずしも全てが見えているわけではない。彼らがいるのは、そのとき、その場所の、その空気だ。

 それが主催者によるものだからいけないのか? 確かに良いこととは言えない。それが馬券に与える影響は、純粋に競馬を楽しみたいものにとってはフェアーだといえない。だから、その空気に乗れないのか? 私はそうは思わない。ハルウララがいい例だ。もし、JRA に問題があるとすれば、それは活動のダサさ、胡散臭さである。

 さて、先ほど私は「ブーム」という言葉を使ったが、その「ブーム」が訪れているのかどうか、未だによく分からないのである。ハイセイコー・ブームのとき、職場の者は皆ハイセイコーの馬券を買っていた、という話を聞く。当時を知らないため比較は難しいが、今の状況はどうだろうか。こんなニュースもある。フジテレビの中継の視聴率が、普段より高い8.5%であり、NHK とあわせると12.5%にもなったのだという。女子ゴルフブームとは聞くが、その女子ゴルフと同じ視聴率である。ただ、女子ゴルフはマスメディアがしつこいぐらいに持ち上げている点を考えれば、競馬の方はまだ将来性がある。いやむしろ、どこか空虚なのは、そのマスメディアの働きかけをあまり目にしないからかもしれない。ハイセイコーのときは、少年マガジンの表紙を飾った。マスメディアはディープインパクトにそこまでするだろうか。

 3つ目、「名勝負というには物足りないレース内容」であるが、確かに名勝負とは呼べないかもしれない。ただ、これはディープインパクト自身がそういうレースにしたといえなくもないのだ。ディープインパクトが抜くまでの単勝支持率の記録は、ハイセイコーのものだった。ダービーまでの期待という意味において、両馬は似たようなところがあるといえるだろう。つまり、どちらも「敵無し」と思われていたわけだ。ここで大きく違うのは、ハイセイコーは敗れたところにある。それによってハイセイコーはライバルを得ることができた。一方ディープインパクトはというと、自身のなすべきことをしたまでであった。レコードタイという結果は素晴らしいものであったが、ディープインパクトは勝つだけでよかったのである。ただ、それだけで良かった。

 ここでふと昨年のことを振り返る。というのは、momdo 氏がキングカメハメハに触れているからだ。このときの1番人気がキングカメハメハ、2番人気がコスモバルク、3番人気がハイアーゲームである。結果は、キングカメハメハが大幅なレコード更新による勝利だった。単勝で260円である。何故、あれほどまでの能力を持った馬が、圧倒的な人気にならなかったのか。ローテーションが悪かった、無敗ではなかった、コスモバルクという人気馬がいた、色々理由は挙げられるだろう。ディープインパクトはそういった状況を一切作らなかったのである。それ故これというライバルもできず、それが現在にも至るのだ。

 birdcatcher 氏は「日本ダービー 雑感」でこう述べている。

感じていることのふたつ目は、「3冠」という勲章をディープインパクトに期待するファンがそんなに多いのか?? ということである。
テレビも新聞もダービーが終わった直後から「次は3冠」と既定路線のようにアナウンスし始めたが、これだけ競馬の国際化が進み、またこの先進んでいく時代に極東アジアの競馬後進国日本の「3冠」に誰がどれだけ価値を認めるのか。

 このまま菊花賞に進むとしても、大半の者は国内の馬にライバルはいないと思っているだろう。そして、予定調和に収まるだろう、と考える。山城守氏は、トウカイテイオーのジャパンカップを例に出しているが、トウカイテイオーには、ナチュラリズムやユーザフレンドリーといった海外の未知なるライバルがいた。(と、それ以前に国内でも負けが続いていたが)

 我々に必要なものは、ディープインパクトに対するライバルなのだ。ライバルがいてこそ、ディープインパクトに感動することができる。そう考えてみると、実は、執拗なまでに英雄を欲しているのは我々ではないのか、というような疑問が頭をよぎるのだ。常に感動を与えてくれるような英雄を。

 ふりむくな、ふりむくな、後ろには夢がない。しかし私は振り向いてしまう。英雄を求めてしまうから。どうも私は、過去のひとレースに過ぎなかった英雄たちを思ってしまうのだ。

 夢はある、しかし私はそこで閉口してしまうのだ。なすべきことをしたものに、それ以上を要求することは酷である。

投稿者 arikui : 2005年05月31日 08:04 | トラックバック

コメント

はじめまして。TBどもです。

うーん、歴史的名馬っすか。
正直「単勝支持率的には歴史的名馬」だけは納得できるけど、それ以外は???なんですよ。人気?強さ?入場人員?視聴率?なんか歴史的名馬ってそんなところで計れないなにかがあると思うんすよね。気持ちっちゅうか。

10年後の競馬カルトクイズあたりに、過去単勝支持率が一番高い馬は何でしょう?あたりに、ハイセイコーのひっかけ問題で出そうです。

もちろん、馬そのものに罪はないけど。

ではでは。

Posted by: てつじん : 2005年05月31日 16:04

個人的には、ダービーを「予定調和」と言い切ったような人たちは、もし先週のシーザリオみたいにディープインパクトが結構な駆け引きに巻き込まれてクビ差とかだったらどういう感想を持ったのかが興味あります。
弥生賞のときにちらほら見かけた
「あんだけ騒いでその程度かよ」
みたいな感想が支配的になった……のかも知れず。

Posted by: 有芝まはる(ry : 2005年05月31日 20:34

てつじんさん、どうもです。

ディープインパクトがこれまでに残した結果だけでも、十分歴史的なことだと思うんです。それも、ちゃんと実力を伴ってのことです。

そういった歴史的な快挙の裏づけは色々挙げられるんですが、どういうわけか私はそれに思ったほど興奮しなくて、その理由はというと色んなところで挙げられてるとおりだ思います。ただ、個人的にはよく分かりません。どの説明も非常に納得できるんですが、本当にそうなのか、よく分からないです。私のエントリーもそうですが、結局個人レベルでの理由付けでしか無いようにも思います。

ただ、その感覚のために、この快挙を素直に喜べなくて、私事ではありますが、自分自身が嫌になったのです。この感覚と事実を切り離さなくてはならないと思ったのです。

Posted by: arikui : 2005年06月01日 01:14

>殿下

「予定調和」っていうとライプニッツ?ですかね。ディープインパクトが辛勝だったら、弥生賞のときのような反応はきっとあるでしょうね。

個人的には「安易に予想可能」ってところですかね。たぶん「想定の範囲内」byホリエモンな具合です。

Posted by: arikui : 2005年06月01日 01:32

三冠への思い入れというのは競馬に興味を持った時期も関係するのでしょう。
少なくとも自分が競馬に興味を持った頃は、三冠とは絶対的なステータスでしたし、海外挑戦・勝利が現実的な夢となった今でも、軽んじることはできない勲章であるという思いはあります。
そして、過去幾多の名馬が夢破れ、挫折していったことを思うと、ディープインパクトの歩む無敗ロードに、夢を見てしまわずにはいられないのです。
これだけの馬が予定を調和させることの困難を思い、ハラハラしながらも期待しつつ。

Posted by: futoiudon : 2005年06月01日 02:33

>futoiudon さん

三冠を狙うか、海外を狙うか、という二択になってしまった場合、どちらを選ぶか世代間で差は出てくるかもしれませんね。三冠か、海外か、という感覚の違いが何によるものなのかは分かりませんが、個人的にはどっちでもいい、って感じです。海外のビッグタイトルを制するという夢も見たいし、三冠馬も見てみたいし(三冠馬見たことないんです)。ただ、どちらか一辺倒よりは、色々悩む方が面白いだろうと思います。競馬初心者にもそういった楽しさを共有させて欲しいなあ、とマスコミには期待したいです。

文章では、「負けたらライバルができて面白くなるかも」というニュアンスも含めて書いてますけど、やはり無敗の「完璧な馬」を願ってしまいます。なんだかんだ言って、完璧を目指す馬ほど土が着くのではないかとハラハラします。

Posted by: arikui : 2005年06月01日 04:00

しげるが、アジアで無敗とかをアナウンスしなかったの?

Posted by: BlogPetの「しげる」 : 2005年06月02日 10:49
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